高齢者の救急受診は、漠然とした訴えで受診される場合も多いです。しかしその20~50%で入院治療が必要な急性疾患が認められたという報告もあります。入院患者さんの急変も同様で、症状や検査値からなかなか異変に気付くことが出来ない、難しいと感じる場面もあるのではないでしょうか。高齢者が増加している今、「高齢者の病状悪化を防ぎたい!少しでも早く異常に気づき、早期治療に臨めるようにしたい!」そのためには、何に注意すれば良いのかを再度考えてみたいと思います。
疾病に対して一般成人であれば、典型的な症状が見られますが、高齢者の場合フィジカルアセスメントで得られた情報や病態を整理することが困難な場合も多いです。高齢者は症状が出現しにくいと言われます。痛みに関しては、加齢に伴い自律神経系の機能が低下し、生体に異常が起こった場合のカテコラミンの放出や感受性低下のため、痛みを感じにくくなります。ACSの場合でも胸痛の訴えは50%以下であり、心電図の虚血性変化も少なくなると報告されています。
腹痛では1/3の事例にその後外科的介入が必要であったという報告もあり、痛みが軽度でも重篤な疾患の可能性があるため、注意深く観察する必要があります。気になる所見や情報が少しでもある場合はそれを軽視するのは危険です。
薬剤に関しては、高齢者は様々な併存疾患があるため、β遮断薬やカルシウム拮抗薬、ジギタリスの内服は、出血性疾患合併のリスクとともに、これらの薬剤はバイタルサインにも影響を与えるため捉え方にも注意が必要になります。定期的に用量を守って内服されていたかどうかも、救急の場合病態へ影響します。
また高齢者は肝臓の代謝酵素の減少や肝血流の低下・腎機能の低下が
あるとともに、身体的変化として、細胞内水分が少ない状態により、水溶性薬物の血中濃度が上昇したり、脂肪組織(体脂肪量)の増加により、脂溶性薬物が脂肪組織に蓄積しやすい状態となるため、薬の効果が通常の成人より強く出現したり、副作用が出やすくなることが起こりえます。
検査に関しても生理的予備能の減少や、代謝速度・神経伝達速度の低下があり、一部の検査項目に低下や上昇が見られたり、値の変化が起こります。高齢者では、筋
肉量が減少していることから、筋肉由来のクレアチニンが減少し、結果腎機能が低下している場合でも血清クレアチニンが正常値を示すことがあります。重症患者に必要な鎮痛鎮静に使用される薬剤も、加齢による影響や個人差を考える必要があるでしょう。
このようなことを考慮すると、高齢者が重篤な病態となった場合、その侵襲度は高く、疾 患の影響で更なる病状悪化につながると考えられます。異常行動も起こりやすいことが予測されます。急な発症の場合は認知症と安易に考えず、せん妄を考慮する必要があり
ます。ショックの場合は脳血流低下による症状(不穏・せん妄)の可能性を考え評価します。失神による転倒の場合も、外傷にばかり着目するのではなく、意識消失の原因は何かという点に注意が必要です。
栄養は身体を維持するために必要不可欠であるが、高齢者は食欲低下・咀嚼嚥下機能低下などにより低栄養となりやすく、これは罹患した場合の回復へも影響を与えます。高齢者の栄養スクリーニングにMNA(mini nutritional assessment)やMNA-SF(short form)というものがあります。これは食事摂取量減少、体重減少、BMI、精神的ストレス・急性疾患、移動性、神経・精神的問題で評価されます。ということは、これらは高齢者の栄養状態や病状の重症度・回復過程に関連する重要な因子であると考える必要があります。
バイタルサインはどのように考えると良いでしょうか。高齢者は基礎体温が低下し、発熱物質に対する視床下部体温中枢の反応が低下するため、感染症に罹患しても体温が正常値である可能性もあります。体温や血圧・心拍数は加齢に伴う変化や薬剤の影響を受けやすいですが、呼吸数はこれらの影響を受けにくい指標であり、身体に異常が起こると早期から変化・異常を来すため、重要なバイタルサインであるといえます。
私的な見解ではありますが、病棟からICUへ病状悪化で入室となった患者さんなど、病棟で状態悪化した事例(主に感染・敗血症事例)を振りかえってみると、その2~3日前から【①ADL低下 ②食事量変化 ③意識障害:せん妄を含める ④体温異常:高熱だけでなく低めの体温も含める ⑤呼吸異常】のどれか、もしくは重複する所見として、①~⑤の症状が観察されていました。今まで述べてきた高齢者の特徴からも、これらに注意することは大変重要です。
このように高齢者のアセスメントは、加齢によって起こる所見がありそれが病的なものかどうかの判断が難しい、また一般的成人に見られるような異常所見があっても、その変化の評価に病的な意味があるのかが不明瞭な場合がある、などの特徴があるため、「なにかおかしい」「いつもと違う」といった気づきがあれば、一度立ち止まりしっかり観察することが大切です。いつもより少しフィジカルアセスメントを深め、定期的なフォローアップを加えながら、日々の経過も含め意識的に観察してみると異常に気づけることがあるかもしれません。患者さんをしっかりみようとする看護師の観察眼にかかっていますね。
Comments